編集部より:なぜ今、防災教育が重要なのか
近年、台風や豪雨、地震などの自然災害が頻発し、子どもを持つ家庭にとって防災教育は切実な課題となっています。私たち編集部のメンバーも実際に子育てをしている中で、「小さな子どもにどうやって災害の怖さや対処法を伝えればいいのか」という悩みを抱えています。
そんな時に見つけたのが、絵本を使った防災教育でした。実際に2歳の娘を持つ編集スタッフが試してみたところ、「地震が来たら机の下に隠れる」という動作を楽しく覚えることができ、その効果を実感しています。
幼児期の防災教育が特に重要な理由
脳の発達と学習の黄金期
幼児期(2~6歳)は、脳の神経回路が急速に発達する時期です。この時期に身につけた行動パターンは、大人になっても無意識に実行できる「体に染み付いた習慣」となります。
年齢 | 発達特徴 | 防災教育のポイント |
---|---|---|
2-3歳 | 模倣能力が高い | 大人の動作を真似させる簡単な避難行動 |
3-4歳 | 言葉の理解が進む | 「だんごむし」などキーワード化した覚えやすい動作 |
4-5歳 | 想像力が豊かになる | 絵本のストーリーを通じて状況を理解 |
5-6歳 | 論理的思考の芽生え | なぜその行動が必要なのかの理由も説明 |
文部科学省が示す防災教育の目標
文部科学省では、学校における防災教育のねらいを、一つ目は「災害時における危険を認識し、日常的な備えを行うとともに、状況に応じて、的確な判断の下に、自らの安全を確保するための行動ができるようにする」、二つ目は「災害発生時及び事後に、進んで他の人々や集団、地域の安全に役立つことができるようにする」、三つ目は「自然災害の発生メカニズムをはじめとして、地域の自然環境、災害や防災についての基礎的・基本的事項を理解できるようにする」としている。
幼児期においては、特に一つ目の「自らの安全を確保するための行動」を楽しく身につけることが最重要課題となります。
絵本が防災教育に最適な理由
1. 感情に訴える力
絵本は視覚的な情報と物語が組み合わさることで、子どもの感情に強く働きかけます。絵本には、防災計画やマニュアルを読むのと違い、心の中にある感覚が残る。その感覚は小さな子どもにも伝染すると内閣府も指摘しているように、絵本は子どもの心に深く刻まれる防災意識を育てる効果的なツールです。
2. 恐怖を和らげる効果
災害について直接的に説明すると、子どもが過度に恐怖を感じる可能性があります。しかし、絵本では動物のキャラクターや優しいイラストを通じて、絵や優しい言葉で、災害に関する知識や状況に応じた正しい対応を学ぶことができます。
3. 繰り返し学習が可能
絵本は何度でも読み返すことができるため、防災行動を自然に反復練習できます。子どもが「もう一回読んで」とリクエストすることで、知らず知らずのうちに防災知識が定着していきます。
年齢別おすすめ防災絵本と活用法
2-3歳向け:基本的な身の守り方を覚える
おすすめ絵本:「グラグラゆれたら だんごむし」
この年齢の子どもには、シンプルで覚えやすい動作から始めることが重要です。
活用のポイント:
- 読み聞かせ中に実際に「だんごむし」のポーズを一緒にやってみる
- 日常生活の中で「地震ごっこ」として遊びに取り入れる
- 褒めながら繰り返し練習することで、楽しい記憶として定着させる
編集部体験談: 「2歳の息子に読み聞かせたところ、最初は動作の意味がわからなかったものの、『だんごむし〜』と言いながら丸くなる遊びとして楽しんでいました。1週間後に実際に緊急地震速報が流れた時、自然と机の下で丸くなっていて驚きました」(編集スタッフA)
3-4歳向け:場面に応じた行動を学ぶ
おすすめ絵本:「あっ! じしん」
地震が起きるとどうなるの? 住んでいるお家、保育園や幼稚園、お買い物をする商店街では…? 地震が起きるとどうなるのか? ということを分かりやすく伝えてくれる絵本です。
活用のポイント:
- 家の中の各部屋で「もし地震が来たらどうする?」をクイズ形式で質問
- お風呂場、台所、階段など、様々な場所での対処法を話し合う
- 実際に家の中を歩きながら、危険な場所と安全な場所を確認
4-5歳向け:災害の種類と対応を理解する
おすすめ絵本:「一生つかえる!おまもりルールえほん ぼうさい」
地震、台風、土砂災害。あした起きるかもしれない、大きな災害。「こわい!」だけじゃ自分を守れないときのために、絵本で学ぶ35の「おまもりルール」が役に立ちます!
活用のポイント:
- 1回ですべてを読まず、1つのルールずつじっくり読み進める
- 「なぜこのルールが大切なの?」と理由も一緒に考える
- 家族でルールを決めて、オリジナルのおまもりルールブックを作成
5-6歳向け:地域の特性を考慮した防災教育
おすすめ絵本:台風や津波など地域特有の災害を扱った作品
この年齢になると、住んでいる地域の特性(海の近く、山の近く、川の近くなど)に応じた防災教育が可能になります。
活用のポイント:
- 地域のハザードマップを一緒に見て、避難場所を確認
- 実際に避難ルートを歩いてみる「防災ウォーキング」を実施
- 近所の防災設備(消火器、防災倉庫など)を探してみる
知育要素を取り入れた防災教育の実践法
言語発達を促す防災教育
キーワード暗記法
- 「おかしも」(押さない、駆けない、しゃべらない、戻らない)
- 「だんごむし」(丸くなって頭を守る)
- 「しっかり つかまり しゃがんで まって」
これらのキーワードを歌やリズムに合わせて覚えることで、言語能力の発達と防災知識の習得を同時に図れます。
数的概念の発達を促す活動
防災グッズカウンティング
アイテム | 個数 | 覚えるポイント |
---|---|---|
懐中電灯 | 家族の人数分 | 「みんなの分があるかな?」 |
乾電池 | 懐中電灯の2倍 | 「予備も含めて倍の数」 |
水 | 1人1日3リットル×3日分 | 「3×3で9リットル」 |
非常食 | 1人3日分 | 「3日間食べられる量」 |
観察力・記憶力を育てる防災ゲーム
家の中の危険探しゲーム
- 絵本を読んだ後、実際に家の中を見回る
- 地震で倒れそうなもの、落ちてきそうなものを探す
- 見つけたものをイラストに描いて記録
- 家族で対策方法を話し合う
このゲームにより、観察力と記憶力が鍛えられ、同時に家庭内の防災対策も進みます。
想像力・創造力を伸ばす活動
防災絵本の続きを考える 絵本を読んだ後、「この後どうなったかな?」「もし○○だったらどうする?」と続きを子どもに考えてもらいます。これにより想像力が育ち、様々な災害シーンに対する対応力も身につきます。
親子で取り組む防災絵本読み聞かせのコツ
読み聞かせの環境作り
時間帯の選択
- 子どもがリラックスしている時間(お風呂上がり、夕食後など)
- 眠くなりすぎる前の時間帯を選ぶ
- 週に1-2回程度、定期的に継続する
読み方のポイント
- 怖がらせないよう、優しい声で読む
- 子どもの反応を見ながら、ペースを調整
- 質問されたら丁寧に答え、一緒に考える姿勢を見せる
読み聞かせ後のフォローアップ
体験と結びつける
- 避難訓練の前後に関連する絵本を読む
- ニュースで災害を見た時に絵本の内容を思い出させる
- 防災用品の点検時に絵本の内容と照らし合わせる
家族での話し合い 読み聞かせ後は必ず、以下の点について家族で話し合いましょう:
話し合うテーマ | 具体的な内容 |
---|---|
我が家のルール | 災害時の集合場所、連絡方法 |
備蓄品の確認 | 食料、水、医薬品の保管場所 |
避難方法 | 避難場所までのルート、持ち出し品 |
家族の役割 | 誰が何を持つか、子どもができること |
災害別・絵本選びのポイント
地震対策の絵本選び
重視すべき内容
- 基本的な身の守り方(机の下に隠れる、頭を守る)
- 揺れが止まった後の行動(火の始末、靴を履く)
- 余震への警戒
避けるべき表現
- 過度に恐怖を煽る内容
- 建物の倒壊シーンが詳細すぎるもの
- 負傷者の描写が生々しいもの
台風・豪雨対策の絵本選び
重視すべき内容
- 事前準備の大切さ
- 外出を控える判断
- 停電時の対応
火災対策の絵本選び
重視すべき内容
- 火災時の行動は、まさに命を左右するものとなるから、「はしらない・さわがない・もどらない・ちかづかない」の4つの約束事項を伝えている
- 煙の危険性と低い姿勢での避難
- 119番通報の方法
絵本と合わせて活用したい防災教育ツール
デジタル教材の活用
国土交通省 防災学習ポータルサイト 地震や台風などの災害はいつどこで起こるかわかりません。しっかりと学んでおくことで、普段からどう備えておくとよいのか、起きたときにどうするといいのかを知ることができます。
このサイトには幼児向けのコンテンツも豊富にあり、絵本と併用することでより効果的な学習が可能です。
体験型学習の組み合わせ
防災センター見学 多くの自治体には防災センターがあり、地震体験車や煙体験室などの設備を利用できます。絵本で学んだ内容を実際に体験することで、学習効果が大幅に向上します。
地域の防災訓練参加 2015年に国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組み」は、防災に子どもたちの声を反映し、災害時に子どもたちが主体的に行動できるよう、地域社会の防災(災害リスク軽減)体制強化事業を進めていくことを求めています。
地域の防災訓練に親子で参加することで、絵本で学んだ知識を実践する機会を得られます。
避けるべき防災教育の落とし穴
1. 過度な恐怖の植え付け
子どもに災害の怖さを理解してもらうことは大切ですが、過度に恐怖心を植え付けると、以下のような悪影響が考えられます:
- 夜泣きや睡眠障害
- 外出を嫌がるようになる
- 地震の話題を避けるようになる
2. 一度きりの学習で終わる
防災教育は継続的に行うことが重要です。一度絵本を読んだだけでは、子どもの記憶に定着しません。
推奨する継続方法
- 月に1回は防災絵本の読み聞かせを行う
- 季節ごとに内容を変えて反復学習
- 子どもが興味を示した時に追加で関連書籍を読む
3. 大人の準備不足
子どもから防災について質問された時、大人が答えられないと教育効果が半減します。
事前準備のチェックリスト
- 家族の避難場所と避難経路の確認
- 非常用持ち出し袋の内容と保管場所
- 災害時の連絡方法(災害用伝言ダイヤル171の使い方)
- 地域のハザードマップの確認
効果的な防災教育のための年間スケジュール
春(3-5月):基礎知識の習得
3月:防災の日(3月11日)に合わせて
- 東日本大震災関連の年齢に応じた絵本を読む
- 家族で防災について話し合う時間を設ける
4月:新学期の準備
- 通学路や新しい環境での防災ポイントを確認
- 保育園・幼稚園の避難訓練について事前に説明
5月:ゴールデンウィークの活用
- 防災センター見学
- 家族でハザードマップを確認
夏(6-8月):台風・豪雨対策
6月:梅雨入り前
- 台風や豪雨に関する絵本を重点的に読む
- 避難グッズの点検と子どもと一緒の準備
7月:夏休み開始
- 地域の防災訓練への参加
- 夏の災害(雷、ゲリラ豪雨)への対応学習
8月:夏休み後半
- 防災キャンプや宿泊体験
- 非常食の試食体験
秋(9-11月):実践力の向上
9月:防災の日(9月1日)
- 年に一度の本格的な防災総点検
- 家族避難訓練の実施
10月:文化祭シーズン
- 子どもと一緒に防災ポスター作成
- 近隣の防災イベント参加
11月:冬への備え
- 停電・暖房停止時の対応学習
- 冬の災害(雪害、火災)対策
冬(12-2月):知識の定着と応用
12月:年末の大掃除時
- 防災用品の総点検
- 期限切れ食品の入れ替え
1月:新年の目標設定
- 今年の防災目標を家族で設定
- 防災日記の開始
2月:まとめと評価
- 1年間の防災学習の振り返り
- 子どもの成長に合わせた次年度計画
専門家が推奨する防災絵本の選び方
信頼できる監修者がいる絵本を選ぶ
防災絵本を選ぶ際は、以下の専門家が監修しているものを優先しましょう:
監修者の例
- 防災士
- 消防署員
- 地震学者
- 気象予報士
- 小児心理学者
年齢に適した内容・表現を選ぶ
2-3歳向けの特徴
- シンプルなイラスト
- 短い文章
- 擬音語(グラグラ、ゴーゴーなど)を多用
- 動物キャラクターが主人公
4-6歳向けの特徴
- より詳細な状況説明
- 複数の災害シーンを扱う
- 理由の説明も含む
- 実際の写真も適度に使用
実際の被災体験が反映されている絵本
この絵本は、平成9年のロシアのタンカー「ナホトカ号」の重油流出事故のときにあった本当のお話のように、実際の災害体験に基づいた絵本は、より現実的で実用的な内容となっています。
デジタル時代の防災絵本活用法
電子書籍の活用メリット
いつでもどこでも読める
- 外出先での待ち時間活用
- 避難所でも読める(端末の充電は必須)
- 複数の絵本を持ち歩く必要がない
インタラクティブ機能
- 音声読み上げ機能
- 動画や音効果付き
- クイズ機能内蔵
YouTube動画との連携
多くの防災絵本がYouTubeで読み聞かせ動画として公開されています。これらを活用することで:
- 正しい読み方や間の取り方を学べる
- 専門家による解説も合わせて視聴可能
- 視覚的な効果で理解が深まる
アプリとの連携活用
防災関連アプリの例
- 緊急地震速報アプリ
- 防災マップアプリ
- 防災クイズアプリ
これらのアプリと絵本を組み合わせることで、より実践的な防災教育が可能になります。
まとめ:防災×知育で子どもの未来を守る
防災教育は、子どもの命を守るための重要な投資です。絵本を活用することで、恐怖を与えることなく、楽しみながら防災知識を身につけることができます。
最も大切なポイント
- 子どもの発達段階に応じた内容選択
- 継続的な学習の実施
- 家族全体での取り組み
- 体験と組み合わせた実践的学習
- 地域特性を考慮した教育内容
編集部では、これからも防災教育に関する最新情報や実践的なアドバイスを発信してまいります。子どもたちの安全な未来のために、今日から防災絵本を手に取ってみてください。
参考資料
- 内閣府防災情報のページ「防災絵本」を見る
- 文部科学省「生きる力をはぐくむ学校での安全教育」
- セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どもにやさしい防災」
- 国土交通省防災学習ポータルサイト
この記事は2025年7月1日現在の情報を基に作成しています。最新の防災情報については、各自治体や気象庁の発表をご確認ください。