数字嫌いを克服した”生活算数”のすすめ ~幼児期から始める楽しい算数体験~

「うちの子、数字を見ただけで嫌がるんです…」

そんなお悩みを抱えていませんか?実は、数字嫌いや算数苦手は、幼児期の体験次第で大きく変わるものなのです。この記事では、遊び感覚で取り組める「生活算数」を通じて、お子さまの数字への苦手意識を自然に解消する方法をお伝えします。


1. なぜ数字嫌いになるの?その原因を知ろう

数字嫌いが生まれるメカニズム

明星小学校校長を務める細水保宏先生によれば、算数苦手の要素は、自分の中でつくられるもの、他人と比べて生まれるもの、他己評価によって植え付けられるものなどがそれぞれ作用し合って表立ってくるものだといいます。

具体的には以下の3つの要因があります:

要因具体例影響
自己評価による苦手意識・計算が遅い<br>・間違いが多い<br>・テストの点数が低い「自分はできない」という思い込み
他者との比較・友達より計算が遅い<br>・授業で手を挙げられない<br>・正解数が少ない劣等感や自信喪失
周囲からの評価・「算数が苦手だね」という言葉<br>・間違いを指摘され続ける<br>・できない部分ばかり注目される固定化された苦手意識

幼児期に数字嫌いが生まれやすい理由

小学1年生が苦手意識を抱える傾向にある「数の概念」について、「りんごは3個ある」の3と「左から3番目」の3は、同じ数字の3ですが、対象としている概念が異なります。

この抽象的な概念理解の難しさが、早い段階での苦手意識につながります。

編集部の体験談

私の息子も3歳の頃、数字を見ると「難しいからいや!」と逃げ出していました。しかし、お菓子の分け合いや階段上りなど、遊びの中で自然に数に触れるようになってから、徐々に数字への抵抗がなくなりました。重要なのは「勉強」として教えるのではなく、「楽しい遊び」として体験させることだったのです。


2. 「生活算数」とは?遊び感覚で学ぶ新しいアプローチ

生活算数の定義と特徴

生活算数とは、日常生活の中で自然に数や算数の概念に触れる学習方法です。特別な教材は必要なく、普段の生活の中にある「数のチャンス」を活用します。

従来の算数学習との違い

従来の算数学習生活算数のアプローチ
机上での勉強が中心生活場面での体験が中心
正解・不正解が明確プロセスを重視
一人で取り組む家族で楽しく取り組む
抽象的な数字から入る具体的な物から数を学ぶ
暗記重視理解と体感重視

生活算数の3つの効果

1. 数への親しみやすさが生まれる 遊びを通して、子どもは自然に数の感覚を身につけることができます。このような遊び方を日常的に行っていると、小学校に入学して算数を習いはじめたときにもスムーズに学習が進みます。

2. 算数の実用性を実感できる 買い物でのお金の計算、料理での分量調整など、算数が生活に役立つことを実感できます。

3. 親子のコミュニケーションが深まる 一緒に数を数えたり、計算したりすることで、自然な親子の時間が生まれます。


3. 年齢別・発達段階に応じた生活算数の実践法

2~3歳:数の世界への入り口

発達の特徴

  • 「1、2、3」と数唱ができるようになる
  • 「たくさん」「少し」などの量的概念が理解できる
  • 具体的な物を使った遊びを好む

おすすめの生活算数

場面活動内容期待できる効果
お風呂タイム「10数えたら上がろうね」<br>おもちゃを「1個、2個」と数える数唱の練習、数と生活の結びつき
お片付け「積み木を3つお片付けしてね」<br>「車のおもちゃは何台あるかな?」数の認識、量的感覚
おやつタイム「クッキーを2枚ずつ分けよう」<br>「いちごは何個あるかな?」分割概念、数える楽しさ

実践のコツ

  • 無理に教えようとせず、遊びの延長として楽しむ
  • 正確性よりも「数に触れる」ことを重視
  • お子さまのペースに合わせてゆっくりと

3~4歳:数の概念が安定する時期

発達の特徴

  • 5までの数を確実に理解できる
  • 「多い・少ない」の比較ができる
  • 順序数(1番目、2番目)の理解が始まる

実践例

4歳児には、数を順番に並べたり、数を比べたり、数を使ったゲームをしたりするような遊びがおすすめです。

トランプを使った数遊び トランプは、数字と個数が描かれているため、自然と「数字」と「数量」を一致させて覚えることができます。

  • 神経衰弱(簡単版):同じ数字のカードを探す
  • 数の大小比べ:引いたカードの数が大きい方が勝ち
  • 数えるゲーム:手持ちのカードを一緒に数える

すごろく遊び すごろくは、サイコロを振ってコマを進めてゴールを目指すシンプルなゲームですが、数の順序や大小を学ぶことができます。

4~5歳:数の操作ができる時期

発達の特徴

  • 10までの数を理解し、操作できる
  • 簡単な足し算・引き算の概念が理解できる
  • 数の保存性(形が変わっても数は同じ)が理解できる

実践例

お店ごっこ お店ごっこで遊ぶものは、紙粘土でたくさんパンやドーナッツを作ってみると、遊びが一層盛り上がるでしょう。

お客さん:「パンを3つください」
店員さん:「はい、1個、2個、3個ですね」
お客さん:「2個食べちゃったから、残りはいくつかな?」

料理のお手伝い

  • 材料を数える:「トマトを5個洗ってね」
  • 分ける作業:「みんなで4人だから、4つに分けよう」
  • 時間を意識:「3分待とうね」

5~6歳:算数の準備が整う時期

発達の特徴

  • 20くらいまでの数を理解できる
  • 簡単な計算ができる
  • 文字や数字への興味が高まる

実践例

買い物での算数体験 お買い物では計数や足し算・引き算をおこなうため、算数のセンスを養えるチャンスがたくさんあります。

  • 「キウイ2個とりんごを1個買おうね。果物は全部でいくつかな?」
  • 「牛乳は3日で1本飲んじゃうよ。6日分買うには牛乳は何本買えばいいかなあ」

カレンダーを使った数遊び カレンダーを通して1〜31までの数字に親しむことができ、数字の形や日付の感覚を養うことにも繋がります。


4. 日常生活で実践!楽しい算数体験の作り方

朝の時間を使った算数体験

起床から朝食まで

時間活動算数要素
7:00起床時計の読み方、時間の概念
7:05着替え「ボタンを5個とめよう」(数える)
7:15朝食準備「お皿を4枚並べよう」(数と対応)
7:30朝食「パンを半分に分けよう」(分数の基礎)

実践のコツ

  • 忙しい朝でも無理のない範囲で
  • 「数える」「分ける」「比べる」を意識
  • お子さまの「なんで?」に丁寧に答える

遊びの中での算数体験

外遊びでの算数 外遊びで育つ空間認識能力は、算数での図形認識力や角度、面積の理解に必要な力です。

  • 階段遊び:「何段あるかな?」「10段目まで行こう」
  • 石集め:「きれいな石を5個集めよう」
  • 砂遊び:「大きい山と小さい山、どっちが高いかな?」

室内遊びでの算数

おはじきやカード、トランプ、すごろくなどを使うと、数字や形に親しむ時間を持つことができます。

おはじき遊び

「赤いおはじきは今何個ある? 3個だね。
あといくつあれば5個になるかな?」

積み木遊び

  • 高さ比べ:「どっちのタワーが高いかな?」
  • 数える:「積み木を10個使って作ろう」
  • 形作り:「三角を4つ使って、大きな形を作ろう」

食事場面での算数体験

料理のお手伝い 子どもとの料理やお菓子づくりは、算数のセンスを養うだけでなく、理科や化学、生活常識が学べる絶好の機会です。

料理工程算数要素声かけ例
材料準備数える、測る「卵を2個割ろう」「砂糖を大さじ3杯入れよう」
分ける・切る分割、等分「りんごを4等分にしよう」「みんなで分けるから6個作ろう」
時間管理時間概念「10分待とうね」「半分の時間が過ぎたよ」
盛り付け配分、対応「お皿に3個ずつ盛ろう」「みんなの分があるか数えよう」

おやつタイム おやつの時間は算数センスを養うチャンスです。

  • 分け合い:「クッキーを兄弟で半分こしよう」
  • 残りの計算:「5個あったクッキー、2個食べたから残りは?」
  • 比較:「どっちのプリンが大きいかな?」

5. 数字嫌いから算数好きへ~成功事例と専門家の声~

実際の成功事例

事例1:3歳のAちゃんの場合

状況:数字を見ると泣いて逃げ出す 取り組み

  • お風呂で「1、2、3…10」まで一緒に数える
  • おやつを「1個ずつ」分ける体験
  • 階段を上りながら「いち、に、さん」

結果:3ヶ月後には自分から「数えたい!」と言うように

事例2:4歳のB君の場合

状況:計算問題を見ると固まってしまう 取り組み

  • トランプでの数遊び
  • 買い物での「全部でいくつ?」クイズ
  • 料理でのお手伝い(数える、測る)

結果:小学校入学前には「算数って楽しい!」と言うまでに

専門家からのアドバイス

数学者の芳沢光雄先生は、「答えを早く出すことばかりを求め、途中の手順を重視しない結果、生徒は『こういう問題はこの式にあてはめる』と暗記するだけで、『なぜそうするのか』考えなくなってしまう」と指摘しています。

生活算数で大切にしたいポイント

  1. 過程を大切にする
    • 答えより「どうやって考えたか」を聞く
    • 間違いを否定せず、考え方を認める
  2. 実感を伴う体験を
    • 具体的な物を使って理解を深める
    • 生活場面での「なるほど!」を大切に
  3. 子どものペースを尊重
    • 発達段階に合わせた取り組み
    • 無理強いは逆効果

6. よくある困った場面と解決策

Q1. 数を数えるのを嫌がります

A1. 数えることを遊びに変えてみましょう

困った場面解決策具体例
お片付けで数えたがらない歌を歌いながら「♪ひとつ、ふたつ、みっつ…」のリズムで
階段で数えたがらないゲーム要素を追加「どっちが早く10まで数えられるかな?」
勉強っぽく感じている日常会話に自然に組み込む「今日は雲がたくさんあるね。いくつ見えるかな?」

Q2. 間違いを指摘すると癇癪を起こします

A2. 間違いではなく「違う答え」として受け止める

❌ 「違うよ、正しくは3だよ」
⭕ 「なるほど、君は5だと思ったんだね。一緒に数えてみよう」

ポイント

  • 間違いを否定語で表現しない
  • 子どもの考えをまず受け入れる
  • 一緒に確認する姿勢を示す

Q3. 他の子と比べて遅れている気がします

A3. 個人差があることを理解し、お子さまのペースを大切に

子どもの発達は個人差があります。同じ年齢でもできることやできないことがあります。

大切な考え方

  • 他の子ではなく、昨日の我が子と比較する
  • 小さな成長を見つけて褒める
  • 焦らずに継続することが重要

Q4. 親自身が算数に苦手意識があります

A4. 親の苦手意識を子どもに伝えないことが重要

保護者の方が苦手だと宣言してしまうと、子どもはますます苦手意識を膨らませかねません。

対策

  • 「一緒に考えよう」というスタンスを取る
  • 分からないときは「調べてみよう」と言う
  • 算数の楽しさを親自身も再発見する

7. まとめ:算数を生涯の友にするために

生活算数の3つの基本原則

  1. 無理をしない
    • 子どものペースに合わせる
    • 嫌がるときは無理強いしない
    • 楽しい体験を優先する
  2. 日常に溶け込ませる
    • 特別な時間を作らずに自然に
    • 生活の中の「数のチャンス」を活用
    • 親子の時間を大切にする
  3. 過程を大切にする
    • 答えより考え方を重視
    • 間違いも学びの一部として受け入れる
    • 「なぜ?」「どうして?」を大切にする

文部科学省の方針とのつながり

文部科学省では、幼児期の遊びを通した学びと各教科等の学習(小学校一年生で学習する全ての各教科等)とのつながり等を解説しており、算数的活動を通して,数量や図形についての基礎的・基本的な知識及び技能を身に付け,日常の事象について見通しをもち筋道を立てて考え,表現する能力を育てることを目標としています。

生活算数のアプローチは、まさにこの方針と合致した取り組みなのです。

長期的な視点で見た効果

幼児期の生活算数の体験は、以下のような長期的効果をもたらします:

効果小学校での変化中学校以降での変化
数への親しみやすさ算数の授業に積極的に参加数学的思考に抵抗がない
論理的思考力問題解決への意欲科学的な考え方の基礎
実用性の理解算数と生活のつながりを実感数学の必要性を理解

最後に:継続することの大切さ

数字嫌いの克服は一朝一夕にはできません。しかし、毎日の小さな積み重ねが、やがて大きな変化をもたらします。

今日からできること

  • お子さまと一緒に階段を数えながら上る
  • おやつを分けるときに「いくつずつ?」と聞いてみる
  • 「たくさん」「すこし」などの言葉を意識して使う

幼児に数の概念を理解させるのは、少し根気のいるものですが、日常生活の中でも自然と数に触れられるようにしていくと効果的です。

お子さまが数字や算数と友達になれるよう、焦らずゆっくりと、そして楽しみながら取り組んでいきましょう。算数は決して「勉強」ではなく、私たちの生活を豊かにしてくれる「道具」なのです。

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参考文献・出典

  • 文部科学省「幼児教育の重要性・遊びを通した学び」
  • 文部科学省「小学校学習指導要領」
  • 芳沢光雄「算数を嫌いにさせないために」(Z会)
  • 細水保宏「算数苦手をなんとかしたい!」(小学館)
  • 迫田昂輝「『算数嫌い!』を言わせないために大切な、たった1つのポイント」

この記事は2025年7月現在の情報をもとに作成しています。お子さまの発達や興味に合わせて、適切にアレンジしてご活用ください。