シュタイナー教育とは?幼児期から始める「心と体と頭」のバランス重視教育法

シュタイナー教育の基本理念

シュタイナー教育とは、オーストリア出身の哲学者ルドルフ・シュタイナー(1861-1925年)が提唱した、子どもの個性を尊重し「自由な自己決定ができる人間」の育成を目指す教育方法です。

シュタイナー教育の歴史

1919年にドイツで最初のシュタイナー学校(ヴァルドルフ学校)が誕生し、現在では世界70カ国以上に約1300校のシュタイナー教育を実践するスクールがあります。日本では1980年代に導入され、現在では7校の全日制学校を含む、さまざまな幼稚園や小中高等学校でシュタイナー教育を中心とした教育活動が行われています。

教育理念の核心

シュタイナーは教育理念を「子どもの魂の中にあれこれいろいろなものを注ぎ込んではなりません。そうではなくて子どもの精神の前に畏敬の念を持つのです。この精神は自分自身で成長していきます。私たちの責任は子どもたちの成長を妨げる障害物を取り除き、その精神が自分自身で成長するきっかけをつくってあげることなのです」と表現しています。

この理念の根底には、人智学(アントロポゾフィー)という思想があり、知的な学習だけではなく、感情や意志に働きかける総合芸術も重視する教育方法として発展してきました。


シュタイナー教育の特徴と教育方法

7年周期の発達理論

シュタイナー教育の最大の特徴は、人間の成長を7年ごとの周期で捉え、各段階に応じた教育を行うことです。

年齢発達段階重点ポイント主な活動
0-7歳からだを育てる時期意志力・感覚の発達自由遊び、手仕事、オイリュトミー
8-14歳こころを育てる時期感情・想像力の発達フォルメン、芸術活動、物語
15-21歳あたまを育てる時期思考力・判断力の発達抽象的思考、専門知識の習得

独自の教育手法

オイリュトミー

オイリュトミーとは、音楽に合わせて身体を動かし、表現することで他者との調和を大切にした取り組みです。言葉の音やメロディーを身体で表現することで、健康な身体や豊かな感性を育みます。

フォルメン

フォルメンとは、直線、曲線、非科学模様などを描くことで芸術的な感性や集中力を養う取り組みで、将来的に数学や美術の基礎学習力も身につくとされています。

エポック授業

国語・算数・理科・社会のうち1つの教科の内容を、毎日105分間、2~3週連続して学ぶ集中授業です。一つの教科に深く没頭することで、学習内容の定着を図ります。

環境と素材へのこだわり

シュタイナー教育では、子どもが触れる環境や素材にも細心の注意を払います。

使用される素材の特徴:

  • 木、布、石、貝殻などの自然素材
  • 温かみのある手作りの教材
  • 合成素材やプラスチックは極力避ける
  • 美しい色彩と自然な形状

年齢別の発達段階と教育内容

第1期:0-7歳「からだ」を育てる時期

この時期は意志力と感覚を育む最も重要な段階です。

教育の特徴:

  • 知識を詰め込むのではなく、自分で行動できるような厳選された環境構成を大切にしています
  • 文字や数字の早期教育は行わない
  • 自由遊びを通じた身体機能の発達
  • 模倣を通じた学習

具体的な活動:

  • 自然素材のおもちゃでの自由遊び
  • 手仕事(編み物、工作など)
  • 季節の行事や祭事への参加
  • 音楽やリズム遊び

第2期:8-14歳「こころ」を育てる時期

感情や想像力を豊かに育む段階です。

教育の特徴:

  • 芸術的な活動を中心とした学習
  • 物語や童話を通じた感情体験
  • 自然現象への関心を深める
  • グループ活動での協調性育成

主な活動:

  • フォルメン(幾何学模様の描画)
  • 器楽演奏や合唱
  • 演劇や朗読
  • 手工芸や農作業体験

第3期:15-21歳「あたま」を育てる時期

論理的思考力と判断力を養う段階です。

教育の特徴:

  • 抽象的概念の理解
  • 科学的思考の発達
  • 社会への責任感の育成
  • 専門分野への深い学び

シュタイナー教育のメリット・デメリット

メリット

1. 個性と創造性の育成

子ども達の個性を尊重しながら、個人が持つ能力を最大限に引き出すのが目標です。テストや点数による評価がないため、競争よりも自己表現に重点が置かれます。

2. バランスの取れた人間形成

「体」「心」「頭」のバランスがとれた人間を育成することを目標とし、全人格的な発達を促します。

3. 自己肯定感の向上

子ど一人ひとりが自己肯定感をもちながら、自立心を育むことができる環境が整えられています。

4. 芸術的感性の発達

音楽や美術など芸術に関する活動も積極的に取り入れることから、感受性や表現力、創造力豊かな人材に育つことが期待できるとされています。

デメリット

1. 一般的な教育との相違

公立校とは学習内容や進み方に違いがあることから、転校などをした場合に学習面で心配になることがあるという課題があります。

2. 生活における制約

シュタイナー教育の思想に沿って、日常生活の見直しが必要です。テレビを見ない、オーガニック中心の食生活を心がけるなど、さまざまな制約を受ける可能性があります。

3. 限られた選択肢

日本国内では、シュタイナー教育を採用している施設が少ないのがデメリットです。

4. 経済的負担

私立学校として運営されることが多く、月額はおよそ5万円程度の費用がかかります。


家庭でできるシュタイナー教育の実践方法

環境づくり

自然素材の活用

シュタイナー教育で用いられる代表的なおもちゃは自然素材(木や布など)のおもちゃ、本物の楽器などです。

具体的な取り組み:

  • 木製の積み木や玩具の選択
  • 自然素材の衣類や布製品
  • プラスチック製品を控える
  • 季節の花を飾る習慣

手作りおもちゃの作成

シュタイナー教育のおもちゃはなぜ天然素材のものでしかもシンプルなものが多いのでしょうか?それは、子どもの創造力、ファンタジーの力を引き出すためです。

簡単な手作りおもちゃ例:

  1. 羊毛人形
    • 羊毛を詰めたシンプルな人形
    • 表情は控えめに描く
  2. 自然素材の積み木
    • 角がないように、よくやすりをかけること、天然のオイルを塗って劣化を防ぐこと
  3. 蜜ろう粘土
    • 常温では固く、遊ぶときには手で温めてからでないとうまく扱えません。粘土の感触に集中することで、想像力を働かせ、感覚を研ぎ澄ませる時間を過ごします

日常生活での実践

リズムのある生活

  • 規則正しい生活リズムの確立
  • 季節の行事や祭事の大切さ
  • 食事の時間を大切にする

メディアとの適切な距離

0~7歳…「からだ」を育てることが一番大切な時期で、「あたま」=思考力を中心的に育てるのは14歳以降がベスト、その前には、「からだ」=手足をたくさん動かしたり、「こころ」=感情を豊かにするような体験をたくさんすることのほうが大切という考えから、幼児期のテレビ視聴は控えめにします。

芸術体験の充実

  • 音楽に親しむ時間
  • 絵画や工作活動
  • 自然観察と季節感の育成

他の教育法との比較

モンテッソーリ教育との違い

項目シュタイナー教育モンテッソーリ教育
発達理論7年周期の発達段階敏感期による発達段階
教師の役割子どもとの精神的つながりを重視観察者として一歩引いて見守る
文字教育7歳まで基本的に教えない3-5歳の敏感期に積極的に教える
環境自然素材中心の温かい環境整理整頓された構造化された環境
教具シンプルな自然素材カラフルで体系的な専用教具

モンテッソーリでは3歳から5歳頃を文字の敏感期としてとらえますが、シュタイナー教育では7歳までは体の発達を重視して基本的に文字は教えません。

レッジョ・エミリア教育との違い

「レッジョエミリア教育」では、子どもの主体性を重視し、アートに力を入れています。シュタイナー教育と同じく芸術活動を取り入れていますが、グループでの取り組みが多く、個性についての考え方に違いがあります。


シュタイナー教育を受けた有名人

日本の著名人

斎藤工(俳優・映画監督)

東京シュタイナー学園の卒業生です。斎藤工さんは、小さい頃(幼児クラス)からシュタイナー教育を学び始めました。そして、小学6年生まで在籍していたそうです。

斎藤工さんは「シュタイナー教育によって培われてきたものこそが、その根源にあります。シュタイナー教育というベースがあるから、今の自分は、すごく柔軟に冷静に俳優という職業を楽しめているんだと思います」と語っています。

その他の有名人

  • 村上虹郎(俳優)
  • 坂東龍汰(俳優)

海外の著名人

ミヒャエル・エンデ(作家)

「モモ」「ジム・ボタンの冒険物語」など多くの人気作品がある小説家のミヒャエル・エンデ。世界的に人気の高い小説家です。実はミヒャエル・エンデもシュタイナー教育を受けた有名人の1人です。17歳の時にギムナジウムからシュタイナー学校へ転校しています。


日本でシュタイナー教育を受ける方法

全日制学校

日本では、全日制の学校が7校、幼児教育の園は60園以上あります。

主要なシュタイナー学校:

  • 学校法人シュタイナー学園(神奈川県)
  • 東京賢治シュタイナー学校(東京都)
  • 京田辺シュタイナー学校(京都府)

費用について

一般的な費用構造:

  • 月額授業料:約5万円
  • 施設管理費・積立金:別途
  • 入学金:学校により異なる

一般的に公立の小学校へ入学した場合には、給食費と教材などの学級費くらいで月に1万円程度の出費かと思います。シュタイナー教育では、私立小学校同様に授業料の他に施設管理費や積立金などの費用がかかり、月額はおよそ5万円です。

卒業資格について

認定校でなければ卒業資格を得られないという点も、デメリットと言えるでしょう。シュタイナー教育の認定校を卒業すれば義務教育修了とみなされますが、そうでない学校でシュタイナー教育を受けても、卒業資格を得られない場合があります。

家庭での補完的実践

学校に通わなくても、家庭でシュタイナー教育の要素を取り入れることが可能です。

実践のポイント:

  1. 自然素材のおもちゃの選択
  2. 季節のリズムを大切にした生活
  3. 手仕事や芸術活動の時間確保
  4. メディアとの適切な距離感
  5. 子どもの発達段階に応じた関わり方

まとめ:シュタイナー教育で育む「生きる力」

シュタイナー教育は、単なる知識の詰め込みではなく、子ども一人ひとりの個性を尊重し、「からだ」「こころ」「あたま」のバランスの取れた人間を育成することを目指しています。

ルドルフ・シュタイナー博士の思想、と言うと身構えてしまいますが、その中には、「昔ながらの素朴な子育て」の感覚に近いものもたくさんあります。

現代社会において、情報過多や早期教育の圧力に直面する子育て世代にとって、シュタイナー教育の理念は新たな視点を提供してくれます。完全にシュタイナー教育の学校に通わなくても、その考え方を家庭に取り入れることで、子どもの豊かな感性と創造力を育むことができるでしょう。

シュタイナー教育を検討する際のポイント:

  1. 子どもの個性を最優先に考える
  2. 発達段階に応じた適切な刺激を与える
  3. 芸術的体験を豊富に提供する
  4. 自然との触れ合いを大切にする
  5. 家族全体のライフスタイルとの調和を図る

子どもの教育選択は家庭ごとに異なりますが、シュタイナー教育の理念を理解し、その一部でも日常に取り入れることで、子どもたちの豊かな人間性を育むきっかけとなるはずです。


参考文献・関連機関

  • 日本シュタイナー学校協会:https://waldorf.jp/
  • 一般社団法人日本シュタイナー幼児教育協会:https://jaswece.org/
  • 各種研究論文および専門書籍