はじめに
「お友達におもちゃを貸してもらったのに、なぜかありがとうと言えない我が子…」そんな場面で、つい「ありがとうは?」と促してしまった経験はありませんか?
合わせて78%の方が「ある」と回答しています。また、「子どもに『ありがとう』『ごめんなさい』を無理やり言わせてしまったことはありますか?」という質問には、「よくある」が45%、「たまにある」が43%と、計88%ものママが「ある」と答えました。
多くの親御さんが同じような悩みを抱えているのです。本記事では、強制することなく、子どもが自然に「ありがとう」を言えるようになる方法をお伝えします。
この記事で分かること
- なぜ子どもが「ありがとう」を言えないのか、その理由
- 年齢別の感謝の心を育む具体的な方法
- 強制しないマナー教育のポイント
- 家庭でできる感謝の心を育む環境づくり
子どもが「ありがとう」を言えない理由とは?
1. 発達段階による理解力の違い
子ども達の脳は、発達途上にあり未熟です。「ごめんなさい」「ありがとう」を伝えるには、相手の気持ちを思いやったり、想像したりする力が必要です。脳の発達から考えて、そもそも2歳・3歳のお子さんが「ごめんなさい」と謝れないことは普通です。
感謝の気持ちを表現するには、相手の立場に立って考える力が必要ですが、これは4〜6歳頃に徐々に発達する能力です。
2. 主な理由別分析
理由 | 詳細 | 対処法のヒント |
---|---|---|
恥ずかしさ | 注目されることへの不安 | プレッシャーを与えず、時間をかける |
言葉の意味の未理解 | 「ありがとう」の本質的な価値を理解していない | 感謝される体験を増やす |
強制への反発 | 「言いなさい」と言われることへの抵抗 | 自然な環境で身につけさせる |
モデルの不足 | 周囲の大人が見本を示していない | 親自身が積極的に感謝を表現する |
3. 心理的要因
「ありがとう」という温かい言葉は、嬉しい気持ちになれば自然と出てくるもの。しかし、親切にしてもらったことを喜ぶ前に「ありがとうは!?」と詰め寄られてしまっては、本来の自然と出てくるお礼とは違うものになってしまいます。
年齢別「ありがとう」が身につく発達の目安
0〜1歳:模倣の始まり
この時期は言葉ではなく、動作での表現から始まります。
発達の特徴
- 大人の真似をする本能が働く
- 「バイバイ」の手振りができるようになる
- 頭を下げる動作を覚える
この時期のアプローチ
- 親が「ありがとう」と言いながら頭を下げる姿を見せる
- 子どもと一緒に手を合わせる動作を繰り返す
2〜3歳:言葉の理解が進む時期
2歳を過ぎるとあいさつの仕方がきちんとわかるようになり、言葉の急激な発達とともに声に出して「こんにちは」「ありがとう」「ごめんなさい」などが言えるようになります。
発達の特徴
- 言葉で感情を表現し始める
- 大人の反応を観察している
- 社会的なルールに興味を持ち始める
この時期のアプローチ
- 強制せず、親が代弁しながら一緒に頭を下げる
- 遊びの中でマナーを教える(ままごと、人形遊び)
4〜6歳:社会性の敏感期
2歳半ごろ~6歳ごろまは「社会性の敏感期」。幼稚園や保育園、家族など自分がいる環境に適応するため、挨拶やマナー、立ち振る舞い、人やものとの関係性などを獲得するためのエネルギーに満ちています。
発達の特徴
- 相手の気持ちを想像する力が育つ
- 集団でのルールを理解し始める
- 自分から挨拶したい気持ちが芽生える
この時期のアプローチ
- 感謝の理由を具体的に説明する
- 子どもが感謝される体験を意図的に作る
効果的なマナー教育の5つのステップ
ステップ1:親自身が感謝の手本を示す
子どもは親の言動や物事に対する姿勢をよく見ています。日常生活の中で、親はどんな場面で、どのように「ありがとう」と言っているか、そのニュアンスや表情も敏感に感じ取って、子どもの記憶にファイルしています。
具体的な実践方法
- 配達員さんに「ありがとうございます」と言う
- パートナーに「お疲れさま、ありがとう」と伝える
- 子ども自身にも「手伝ってくれてありがとう」と感謝を示す
ステップ2:感謝される体験を作る
子どもが「ありがとう」と言われる体験を意図的に作り、感謝の言葉がもたらす温かさを実感させます。
効果的な方法
- 簡単なお手伝いをお願いして、感謝を伝える
- 兄弟や友達に親切にできた時に、その場で「ありがとう」と言う
- 祖父母や親戚からも感謝の言葉をもらえる機会を作る
ステップ3:嬉しい気持ちを言語化する
それが終わったら、次に私たち大人の口から相手に「ありがとう」と伝えてみてください。そうすれば、嬉しい気持ちになった子どもの口から、そのうち自然と「ありがとう」の言葉が溢れてくることでしょう。
実践のポイント
- 子どもが親切にされた時、まず親が代わりに「ありがとう」と言う
- 子どもの嬉しそうな表情を確認してから促す
- 「嬉しかったね」「優しくしてもらったね」と気持ちを言語化する
ステップ4:遊びを通じたマナー学習
おもちゃを使って様々な場面設定をしながら、やりとり遊びができるとよいでしょう。例えばままごと遊びやパペット(指人形)などを使って、お子さんとお母さんとの関係、お友達との関係など具体的にどのような状況でどのような言葉を使うかを遊びの中で教えてあげるのがよいでしょう。
おすすめの遊び方法
遊びの種類 | 身につくマナー | 具体的な方法 |
---|---|---|
ままごと | 食事のマナー、お礼の言葉 | レストランごっこで「ありがとう」を練習 |
お店屋さんごっこ | 買い物でのマナー | 商品を受け取る時の「ありがとう」 |
人形劇 | 様々な場面での挨拶 | 人形同士のやりとりで感謝を表現 |
絵本の読み聞かせ | 道徳的な価値観 | 感謝をテーマにした物語を選ぶ |
ステップ5:成功を認めて自信を育む
「お部屋がきれいになって気持ちいいよ。ありがとう」と感謝の言葉を伝えると、子どもはどう感じるでしょうか。親に認められたうれしさに加え、「部屋を片付けると、みんなが喜んでくれる。家族のためになることができた」といった、褒められたときとは異なる喜びを感じるはずです。
絶対にやってはいけないNG行動
1. 強制的な言葉がけ
NGワード例
- 「ありがとうは?」
- 「なんて言うの?」
- 「ちゃんと言いなさい!」
なぜダメなのか 「ありがとうは?」と、親が子供に強要している場面を時々見かけることがありますが、これはNGです。何故なら、親に促されなければ言えなかったり、「ありがとう」と言葉で言っても、心から感謝を感じていなければ、反対に無理強いされていることに、反発心が芽生えることもあるからです。
2. 感情的になる
子どもが言えない時に感情的になると、「ありがとう」という温かい言葉に対してネガティブなイメージを植え付けてしまいます。
3. 他の子と比較する
「○○ちゃんは言えるのに」などの比較は、子どもの自尊心を傷つけ、逆効果になります。
専門家が推奨する効果的な声かけ方法
年齢別声かけの例
2〜3歳向け
- 「こういう時は『ありがとう』って言うんだよ。(大人が一緒に)ありがとう」
- 「○○してくれて嬉しいな〜」
- 「ママも一緒に言おうか?」
4〜6歳向け
- 「○○くんにごめんねって言えるかな?ママと一緒に言う?」
- 「『ありがとう』って言ってもらうと、相手の人も嬉しい気持ちになるんだよ」
- 「今の気持ち、どうだった?」
効果的な褒め方
子どもが「ありがとう」と言ったら、「○○ちゃんにありがとうって言ってもらうと、ママとっても嬉しいわ!」と言葉にして、喜びを伝えましょう。大好きなママが喜んでくれることで、子どもは何度も「ありがとう」を言いたくなります。
家庭で実践できる感謝の心を育む環境づくり
1. 感謝の見える化
手作りポスターの活用
- 「『ありがとう』『ごめんね』はうれしい言葉」というポスターを作成
- 感謝のシーンを絵で描いて壁に貼る
- 家族の感謝メッセージボードを設置
2. 日常的な感謝の習慣
食事の時間の活用
- 「いただきます」「ごちそうさま」の習慣化
- 作ってくれた人への感謝を表現
- 食材への感謝の気持ちを話す
就寝前の振り返り
- 「今日嬉しかったことは?」
- 「誰かに優しくしてもらった?」
- 「明日誰に『ありがとう』を言いたい?」
3. 地域との関わりを大切にする
- 近所の方への挨拶を心がける
- 商店街でのお買い物時のマナー
- 公園での遊具の使い方と感謝
よくある悩みとその解決策
Q1. 3歳の子どもが頑なに「ありがとう」を言いません
A1. 恥ずかしがり屋さんの場合のアプローチ
あいさつの場面で無理やり言わせることは避けたほうがいいでしょう。ますます抵抗し逆効果になります。お母さんが「ありがとう」と代弁して、お子さんの頭を少し下げさせるようにするとよいでしょう。
具体的な対処法
- 親が代わりに「ありがとう」と言う
- 子どもと一緒に軽く頭を下げる
- 相手の顔を見るように優しく促す
- 成功体験を積み重ねる
Q2. 外出先で恥ずかしくて困ります
A2. 事前の準備と心構え
出かける前の準備
- 「今日は○○に行くから、『ありがとう』を言う場面があるかもね」
- ロールプレイで練習
- 「言えなくても大丈夫、ママが一緒にいるから」と安心感を与える
その場での対応
- 子どもの代わりに親が感謝を伝える
- 「まだ練習中なんです」と周囲に説明
- 帰宅後、良かった点を振り返る
Q3. 兄弟で差があって焦ります
A3. 個性を認めた対応
子どもはそれぞれ異なるペースで成長します。比較せず、その子なりの成長を認めることが大切です。
対応のポイント
- 兄弟を比較しない
- それぞれの良いところを見つける
- 年齢に応じた期待値を設定する
編集部実践レポート:我が家の体験談
編集部スタッフA(4歳男の子のママ)の場合
「うちの息子も2歳頃から『ありがとう』を言わない時期が続きました。最初は『ありがとうは?』と毎回促していましたが、余計に頑なになってしまって…
転機となったのは、息子が私に手伝いをしてくれた時に、心から『ありがとう、助かったよ』と伝えたことでした。息子はとても嬉しそうな顔をして、その日から少しずつ自分からも『ありがとう』を言うようになりました。
今では、感謝される嬉しさを知った息子が、進んで人の手伝いをするようになっています。無理強いしなくて本当に良かったと思います。」
編集部スタッフB(3歳女の子のママ)の場合
「娘は人見知りが激しく、外では絶対に『ありがとう』が言えませんでした。でも家では私の真似をして人形に『ありがとう』と言ってくれるので、成長していることは分かっていました。
ある日、いつものように私が代わりに『ありがとう』と言っていたら、娘も小さな声で一緒に言ってくれたんです。それ以来、徐々に外でも言えるようになってきました。
子どものペースに合わせることの大切さを実感しました。」
感謝の心が育つことで得られるメリット
1. 社会性の向上
感謝の気持ちを持つことで、主に以下のような3つのメリットが生じます。
- 人間関係が良好になる
- コミュニケーション能力が向上する
- 集団生活への適応力が身につく
2. 精神的な安定
感謝の気持ちを表現することで、以下の効果が期待できます:
- 自己肯定感の向上
- ストレス軽減効果
- 幸福感の増大
3. 将来への影響
幼児期に身についたマナーは生涯にわたって影響します:
- 学校生活での人間関係
- 将来の職場でのコミュニケーション
- 結婚・子育てでの価値観形成
まとめ:強制しない感謝の心の育て方
「ありがとう」が自然に言える子どもに育てるためには、以下のポイントが重要です:
重要なポイント
- 発達段階を理解する
- 2〜3歳で言えないのは普通のこと
- 4〜6歳で徐々に理解が深まる
- 親が手本を示す
- 日常的に感謝の言葉を使う
- 子どもにも積極的に感謝を伝える
- 強制しない環境づくり
- 「ありがとうは?」は逆効果
- 自然な体験を積み重ねる
- 成功を認める
- 小さな成長も見逃さない
- 感謝される喜びを実感させる
最後に
子どもは親の大切にしたいことを受け取り、自分なりに大切にしたいものをつくりあげていく。それが親とは違うものであっても、子どもの価値観として認めてあげたい。違う人間なのだから。
感謝の心を育むことは、一朝一夕にできることではありません。しかし、親の愛情と忍耐強い関わりがあれば、必ず子どもは自然に「ありがとう」と言えるようになります。
子どもの個性とペースを大切にしながら、温かい家庭環境の中で感謝の心を育んでいきましょう。そうすることで、子どもは人を思いやる心優しい大人へと成長していくのです。
参考文献・出典
- 厚生労働省「体罰等によらない子育てのために〜みんなで育児を支える社会に〜」
- こども家庭庁「児童虐待防止対策」
- 筑波大学相川研究室「子どもの感謝スキル研究」
- 日本モンテッソーリ教育学会「社会性の敏感期について」
この記事は、育児・幼児教育の専門家への取材と、最新の研究データに基づいて作成されています。