将棋の藤井聡太棋士やGoogle創業者が受けた教育として話題のモンテッソーリ教育。専門施設に通わなくても、ご自宅でその恩恵を受けることができることをご存知でしょうか。
本記事では、モンテッソーリ教育の基本原理から年齢別のおもちゃ選び、手作り教具の作り方まで、幼児教育を検討中のご夫婦に向けて包括的にご紹介します。子どもの可能性を最大限に引き出すために、今日から始められる実践的な方法をお伝えします。
この記事のポイント
- モンテッソーリ教育は自宅でも実践可能
- 年齢別に適したおもちゃを選ぶことが重要
- 手作り教具でもモンテッソーリの原理を体現できる
- 子どもの「敏感期」を理解して環境を整える
- 見守ることが何より大切
モンテッソーリ教育とは?基本の考え方
自己教育力という概念
モンテッソーリ教育は、「子どもには自分で自分を教育する、育てる力がある」という「自己教育力」の考えを根底に考えられた教育法です。この教育法は、20世紀初頭にイタリアの精神科医で教育者のマリア・モンテッソーリ氏によって考案された教育法で、彼女は1907年に設立された「子どもの家」で貧困層の元気な子を対象に、この独特な教育法を完成させました。
環境の重要性
モンテッソーリ教育において、大人の役割は教師ではなく環境の準備者です。大人は子どもを観察し、発達段階に合わせたおもちゃ(教具)や環境を整えることが大切です。子どもが自発的に学びたいと思える環境を整えることで、その子が持つ力を最大限に引き出すことができます。
敏感期という発達の窓
モンテッソーリ教育では「敏感期」という概念が重要です。敏感期とは、成長に伴って必要とする物事への感受性が高まり、子ども自身が環境の中から自主的に学び取りやすい時期を指します。
主な敏感期は以下の通りです:
- 言語の敏感期(0歳~6歳頃):言葉の吸収能力が最高潮に
- 運動の敏感期(0歳~6歳頃):身体動作の習得に最適
- 感覚の敏感期(0歳~6歳頃):五感の発達が著しい時期
- 秩序の敏感期(2歳~4歳頃):順序や規則性を好む時期
- 社会性の敏感期(2歳6ヶ月~6歳頃):他者との関わりを学ぶ時期
モンテッソーリ教育の5つの分野
モンテッソーリ教育では、3〜6歳の子どもの力を発揮させる環境として5つの教育分野が用意されています。
分野 | 対象年齢 | 主な内容 | 期待される効果 |
---|---|---|---|
日常生活の練習 | 0歳~ | 切る、縫う、身だしなみ、マナー | 自立心、集中力、手指の巧緻性 |
感覚教育 | 0歳~ | 視覚、触覚、聴覚など五感を使った活動 | 観察力、識別力、知的活動の素地 |
言語教育 | 0歳~ | 聞く→書く→読む→文法の順序で学習 | 語彙力、文章構成力、コミュニケーション力 |
数教育 | 3歳~ | 数量、数詞、数字の一致 | 論理的思考、数的概念の理解 |
文化教育 | 3歳~ | 地球、時、生命、美術、音楽など | 知的好奇心、世界観の形成 |
年齢別:自宅でできるモンテッソーリおもちゃガイド
0歳(新生児~12ヶ月)
発達の特徴
0歳の赤ちゃんは、20~30cmくらいの位置にしか目の焦点を合わせることができません。そのため、まず目の焦点を合わせる練習をし始めます。
おすすめのおもちゃ・教具
- モビール
- モビールは目の焦点をあわせるのにピッタリ。電動のメリーと違って風の動きでやさしく動くから、赤ちゃんでも目で追うことができるんです
- 手作り方法:色紙を切って糸で吊るすだけの簡単版から本格的なものまで
- 鏡
- 安全な赤ちゃん用鏡を床に設置
- 自分の顔を見ることで自己認識を促進
- ガラガラ・ラトル
- 握る・振る・音を出すという基本動作を学習
- 木製で自然な音がするものがおすすめ
1歳(12ヶ月~24ヶ月)
発達の特徴
1歳になると指先が独立して動くようになり、モンテッソーリ教育でも重要視している手先の動きの発達を促すような遊びが増えてきます。
おすすめのおもちゃ・教具
- ポットン落とし
- コインを入れて落としたり、引き出しを開けたり閉めたり!引き出しを開けて中の物を取り出す練習や、コインを入れる練習は、手先の巧緻性と集中力を高めます
- 手作り方法:ペットボトルや空き缶に穴を開けて作成可能
- 型はめパズル
- つまみがついたはめ込みパズルも、1歳向けのモンテッソーリ教具の1つです。子どもが、親指・人差し指・中指で小さなものをつまめるようになったら、取り入れてみましょう
- 積み木
- これまではただつかんで・離すといった動きだったのを、積み木で遊ぶことにより、目で見て狙った位置に置くというより発展した動作(目と手の協応動作)にまでレベルアップさせることができます
2歳(24ヶ月~36ヶ月)
発達の特徴
2歳は体の使い方が器用になって活発に動くようになり、話す言葉も増えてくる時期です。興味の対象が広がり、好奇心も旺盛になります。
おすすめのおもちゃ・教具
- 紐通し
- 手指の協調性と集中力を養う
- モンテッソーリ教育のおしごとで有名な「縫い差し」というものがありますが、棒差しはその前段階の大事な「おしごと」。「棒差し→紐通し→縫い差し」という順番でどんどんレベルアップしていきます
- シール貼り
- モンテッソーリ定番中の定番のお仕事です!!シールはりは、手指の細かい動作です。どこに貼るのか認識し、シールを剥がし(難しい!)、貼っていく
- 色分け・分類遊び
- 同じ色や形のものを分ける活動
- 論理的思考の基礎を育成
3歳以上(36ヶ月~)
発達の特徴
3歳から6歳までの時期を「後期」とし、各時期に現れる「敏感期」に合った環境を準備することが大切だと考えられています。
おすすめのおもちゃ・教具
- 円柱さし
- モンテッソーリ教育の代表的な感覚教具
- 大きさや高さの違いを段階的に理解
- 算数棒
- 算数棒を使った練習では、数の大きさや順番を楽しく覚えられるようになっています
- 文字・数字カード
- 言語教育と数教育の基礎
- 読み書きへの興味を促進
手作りモンテッソーリ教具の作り方
100均で作るモンテッソーリ教具
100均の材料でモンテッソーリ教具が作れるって、どんな風に?実際に、多くの基本的な教具は身近な材料で作ることができます。
1. ポットン落とし
材料:
- プラスチック容器
- ボール(直径約4cm)
- カッター
作り方:
- 容器の蓋にボールが通る程度の穴を開ける
- 穴の周りをテープで補強
- ボールを入れて完成
2. 色分けトレイ
材料:
- 色付きのポンポン
- 小さなボウル数個
- トレイ
作り方:
- トレイにボウルを配置
- 各ボウルに色の見本を貼る
- 混合したポンポンを分類して遊ぶ
3. 紐通し教具
材料:
- 大きなボタン
- 紐(靴紐など)
- ハサミ
作り方:
- 紐の先端を硬くするため、テープを巻く
- ボタンに色や形でパターンを作る
- 順序立てて通す練習をする
手作り教具の注意点
手作りするとサイズ・色・難易度をお子さまに合わせて調整できるのもメリットです。ただし、以下の点にご注意ください:
- 安全性を最優先:誤飲の危険がないか確認
- 耐久性を考慮:繰り返し使用に耐えられる作り
- シンプルさを保つ:大きさの違いだけに興味を持ってもらうことができるという考え方なのです
自宅でのモンテッソーリ環境の整え方
4つのコーナー作り(0~5ヶ月)
赤ちゃんには「いつも同じ場所、同じ時間、同じ順番、同じやり方、同じ人」が大切なポイントです。
コーナー | 目的 | 準備するもの |
---|---|---|
寝るコーナー | 睡眠に集中 | 静かな場所、お布団 |
授乳コーナー | 落ち着いた授乳環境 | 椅子、飲み物、タオル |
運動コーナー | 日中の活動場所 | マット、モビール、鏡 |
お世話コーナー | おむつ替えや着替え | お世話グッズ一式 |
棚の活用方法
モンテッソーリ教育で、棚はとても重要な存在とされています。
0歳用(2段棚)
- 下段:寝返り・ずりばい時期の子どもの目線
- 上段:つかまり立ち時期の子どもの目線
- おもちゃは2~3個程度に限定
1~2歳用(4段棚)
- 1~2歳になり、歩くようになったら4段の棚を用意します
- 各段に異なる分野の教具を配置
- 子どもが自分で選択できる高さに調整
トレイを使った整理整頓
例えば、「ポットン落とし」は落とす玉と本体をひとつのトレーに収まる分だけをまとめておくことで、子どもが自分で運ぶことが出来て、片付けもしやすいです。
親の関わり方:見守ることの重要性
提示の技術
「提示」とは、あそびの前にやりかたを見せることです。正しく、ゆっくり、丁寧にやって見せます。子どもは見たことを真似、何回も挑戦するうちに身につけていきます。
見守ることの大切さ
おもちゃで遊ぶ子供を静かに見守ること。それだけ肝に銘じておけば良いと思います。余計な口出しやおせっかいは、子供が自分で成長する機会とやる気を無くすだけの、ただの邪魔になりかねません。
褒め方・叱り方の注意点
モンテッソーリ教育では、子どもを叱ってしつけることや、過度に褒めることは効果が低いと考えられています。これは、「親に叱られたくない」や「褒められたい」という気持ちが、子どもの行動の理由になってしまうためです。
モンテッソーリ教育の効果:科学的エビデンス
学術研究による裏付け
バージニア大学(アメリカ)の研究では、モンテッソーリ教育とそれ以外の教育の影響を比較分析しています。3歳のこども計141人を対象に、6歳になるまでの3年間を追跡調査した結果、モンテッソーリ教育を受けた子どもたちは様々な分野で高い能力を示したことが報告されています。
期待される効果
モンテッソーリ教育は、学問分野(言語、数学、社会、理科などの学科)および学問以外の分野(創造性、実行力、社会技能など)の双方で、こどもたちの成果によい影響を与えるとされています。
具体的には以下のような能力の向上が期待されます:
- 集中力:自分で選んだ活動に取り組む能力
- 自立心:自分のことは自分でする意識
- 社会性:異年齢の子どもとの関わりによる協調性
- 創造性:自由な環境での発想力
- 問題解決能力:自分で考えて解決する力
よくある質問と注意点
Q1: モンテッソーリ教育は早期教育ですか?
いいえ、モンテッソーリ教育は早期教育ではありません。子どもの発達状況や興味・関心に合った知育玩具を選び、子どもの成長発達をサポートできるような環境を整えましょう。子どもの自然な発達に寄り添うことが基本です。
Q2: 専門的な教具は必要ですか?
モンテッソーリ教育のおもちゃは、身近な材料で手作りできるんですよ。基本的な考え方を理解していれば、おうちでもモンテッソーリ教育を取り入れられます。重要なのは教具そのものではなく、子どもが自主的に学べる環境です。
Q3: 一般的な保育園・幼稚園との違いは?
通常の幼稚園保育園ではさまざまな行事が開催されますが、モンテッソーリ教育では行事が控えめです。モンテッソーリ教育では「日常生活」を大事にする考え方があります。
注意すべきポイント
- 個人差を尊重する:子どもの発達には個人差があります
- 無理強いしない:興味を示さない時は時期を待つ
- 安全を最優先:特に手作り教具の安全性確認は必須
- 継続性を重視:短期間での成果を求めない
編集部の体験談
編集部A(2歳の母)の声 「自宅でモンテッソーリを始めて半年。最初は手作りのポットン落としから始めました。娘が30分以上集中して遊ぶ姿を見て、改めて子どもの集中力に驚かされました。今では自分でおもちゃを選んで片付けまでするようになり、自立心も育っていると感じます。」
編集部B(3歳の父)の声 「100均で材料を揃えて週末に教具作りをするのが楽しみになっています。息子と一緒に作ることで、親子のコミュニケーションも深まりました。完璧を目指さず、子どもが楽しんで遊べることを第一に考えています。」
まとめ:今日から始めるおうちモンテ
モンテッソーリ教育は、特別な施設や高額な教具がなくても、ご家庭で実践することができます。大切なのは以下の3つのポイントです:
- 子どもを観察する:興味や発達段階を理解する
- 環境を整える:子どもが自分で選択できる環境作り
- 見守る:子どもの自主性を尊重し、必要以上に介入しない
モンテッソーリ教育は子どもがうまれながらに本来持っている『自己教育力』(自分で育とうとする力)を大切にして、一人ひとりの自立をめざすとともに、自分自身だけでなく他者にも配慮ができる心を大切に「主体的、活動的、知性と感性豊かな」子どもを育むことを目指しています。
子育ては一朝一夕にはいきませんが、モンテッソーリ教育の考え方を取り入れることで、親子ともに穏やかで豊かな時間を過ごすことができるでしょう。まずは年齢に適したシンプルなおもちゃから始めて、お子さんの成長を温かく見守ってみてください。
参考情報
- 日本モンテッソーリ教育綜合研究所:https://sainou.or.jp/montessori/
- 公益財団法人 才能開発教育研究財団
- バージニア大学研究「Montessori Preschool Elevates and Equalizes Child Outcomes: A Longitudinal Study」(2017年)
本記事は、各種専門機関の情報および科学的研究に基づいて作成していますが、個々のお子さんの発達や興味には個人差があります。お子さんの様子をよく観察し、無理のない範囲で実践してください。