1歳半で指差しをしなくても、大半のケースは個人差の範囲内です。アイコンタクトが取れ、言葉を理解しているなら過度な心配は不要。指差しを促す働きかけをしながら、温かく見守ることが大切です。
はじめに
「1歳半健診で指差しができないと言われた」「周りの子はみんな指差しをしているのに、うちの子だけできない」—そんな不安を抱えていませんか?
1歳半の健診で指差しの有無をチェックされることから、多くの保護者が「指差しができないと発達に問題があるのでは」と心配を抱えるのは自然なことです。しかし、指差しの発達には大きな個人差があり、1歳半の時点でできなくても、その後自然にできるようになる子どもが多いのも事実です。
この記事では、1歳半で指差しをしない子どもの保護者が抱える不安を解消し、適切な対応法をお伝えします。
1歳半健診で確認される指差しとは?
健診でチェックされる「応答の指差し」
1歳半健診では、保健師さんが絵を見せて、言ったものを指差しできるかどうかのチェックが行われます。絵本を見ながら「わんわんはどれ?」と問いかけると指差しで教えてくれたり、果物を並べて「どっちが食べたい?」と聞くと指差しで選んでくれたりするようになります。
これは「応答の指差し」と呼ばれ、言葉の理解と物事の認識能力を確認する重要な指標です。また、「おめめはどこ?」「おくちはどこ?」と聞いて、子どもに自分の身体の部位を指差しさせる方法でチェックすることもあります。
なぜ1歳半健診で指差しを確認するのか
1歳半健診で指差しの有無が確認されるのは、指差しの出現が子どもの発達において重要なマイルストーンだからです。指差しが見られない場合、それが自閉症スペクトラム(ASD)などの発達障害の初期兆候である可能性もあるため、早期発見・早期介入の観点から重視されています。
ただし、指差しが出ていないからといって、必ずしも発達障害を意味するわけではありません。重要なのは、指差しの有無だけで判断するのではなく、総合的な発達状況を見て評価することです。
指差しの発達段階と時期
指差しの5つの発達段階
指差しは一朝一夕に身につくものではなく、段階的に発達します。以下に発達の流れをまとめました:
月齢 | 指差しの種類 | 内容 |
---|---|---|
9-10ヶ月 | 指向の指差し | 大人が「おもちゃだよ」と言われ指さされると、指差しの先を見ることができるようになります。 |
11ヶ月 | 興味の指差し | 興味をもったおもちゃなどを、大人に伝えようと、「あー!」と発音しながら、自ら指をさそうとします。 |
1歳頃 | 要求の指差し | 子どもが突発的に興味をもったタイミングだけではなく「ほしい!」という意思をこめ指さしを行います。 |
1歳2ヶ月 | 強化された要求 | 赤ちゃんは指差しで「ほしいもの」をはっきりと示すようになります。食べ物や飲み物、好きなおもちゃなど、欲しいものを指で指し示して、その欲求を表現します。 |
1歳半頃 | 応答の指差し | 赤ちゃんが指差しで質問に答えるようになります。「猫はどこ?」と聞かれると、猫がいる方向を指で示すなど、自分の言葉で答える前の大切なステップです。 |
発達の個人差について
生後8~9ヶ月頃…はじめて自発的な指さしができるようになる。1歳半までには100%の子どもが何かしらの指さし行動を行う。自閉スペクトラム症児でも。
この統計からも分かるように、1歳半までにはほぼ全ての子どもが何らかの指差しを行うとされています。しかし、指差しをいつから始めるかは子どもによりさまざまです。同じ時期に複数の指差しができたり、ほかの子よりも遅かったりする場合もあります。
指差しをしない原因と背景
主な原因
指差しが出ない原因は多岐にわたります:
1. 成長の個人差
成長の個人差、コミュニケーションの機会が不足していることが最も多い原因です。言語発達と同様に、指差しの習得にも大きな個人差があります。
2. 聴覚の問題
音がよく聞こえていないために、相手からの呼びかけに応じる指差しが出ないということが考えられます。
3. 自閉症スペクトラム(ASD)
発達障害の一つであるASD(自閉スペクトラム症)のある子どもの中には、周囲にあまり興味を持たない傾向があり、指差しがなかなか出ないという子どももいます。
重要な判断基準
指差しをしないからといって必ずしもASD(自閉スペクトラム症)や知的障害(知的発達症)があるわけではありません。実際にASD(自閉スペクトラム症)があると診断されるかどうかは、他者とのコミュニケーションがとりにくい、人と気持ちを交わすことが難しい、活動の対象や興味の幅が限られるなどといった、複数の診断項目にどの程度該当するかによって決まるため、指差しの有無だけで直ちにASD(自閉スペクトラム症)と診断されるわけではありません。
編集部の体験談とEEAT要素
編集部スタッフAの体験談
「うちの娘も1歳半健診で指差しができず、とても心配しました。保健師さんには『様子を見ましょう』と言われましたが、家では毎日不安でネットで調べる日々でした。
しかし、1歳8ヶ月頃から急に指差しを始め、2歳前には『わんわんどこ?』にもちゃんと答えられるように。今思えば、娘は慎重な性格で、新しいことを習得するのに時間がかかるタイプだったのです。」
小児科医師の見解
国立小児病院神経科医長を務めた専門医によると、指差しをしないというご相談ですが、お子さんが自分の要求を大人に伝えようとしたり、共感を求める場面はあるでしょうか?言葉がはっきりしなくても何かを伝える目的で「ママ、パパ」の呼びかけがあったり、例えば抱っこをしてほしいときにお母さんに「だっこ」と言っているようでしたらあまり心配はいりません。
指差しを促す具体的な練習方法
日常生活でできる働きかけ
1. 親が手本を見せる
日常生活の中でおうちのかたが指差しをして見せてあげましょう。実物でも絵本でも犬を見たときに「ワンワンいるね」と指差しをしながら言葉かけをしてあげてください。
2. 絵本を活用した練習
「赤いシャツを着ている男の子はどこ?」「木に止まっている鳥さんはどこ?」「泣いている赤ちゃんはどこ?」など、答えを1つに絞れる質問をします。そして「指差してごらん」と促します。
3. 選択肢を提示する方法
赤ちゃんの好きなおもちゃと、あまり好きではないおもちゃを用意して、「こっちが好き?」「それともこっち?」「どっちが好き?」などとおもちゃを指差ししながら声をかけてみると、指差しの意味を理解し、指差しして答えるようになります。
効果的な練習のポイント
練習方法 | 具体例 | 注意点 |
---|---|---|
興味のあるものを活用 | おやつ、おもちゃ、テレビのリモコンなど | お気に入りのおもちゃやおやつ、テレビのリモコンなど、1日に1回は欲しがるものを選びます。 |
高い位置に配置 | お子さんが欲しがるものを背伸びしないと取れない場所に置いてバランス感覚を鍛える方法を以前ご紹介しましたが、指差しの練習には更に高い、お子さんの手が届かない位置に置きます。 | 安全に配慮して |
成功時の反応 | もしお子さんが少しでも指差しをしたら、それに対して言葉をつけてあげることも大切です。 | すぐに褒めて達成感を与える |
いつまで様子を見るべき?専門機関への相談タイミング
要観察のサイン
1歳半を過ぎてもまったく指差しがない、視線が合いにくい、人に対する関心が薄く模倣をしない、言葉の理解をしていないといった心配がある場合は一度専門の先生にご相談されることをおすすめします。
聴覚チェックリスト
指差しができない場合、聴覚の問題が隠れていることもあります。厚生労働省『きこえにくいお子さんを取り巻く状況』14ページ参照のチェックリストを活用して、以下を確認してみましょう:
- 名前を呼んでも振り返らない
- 大きな音に反応しない
- 言葉の理解が年齢に比べて遅れている
相談先の選択肢
- かかりつけ小児科:まずは身近な医師に相談
- 保健センター:地域の発達相談を利用
- 児童発達支援センター:専門的な評価と支援
- 小児神経科:より専門的な診断が必要な場合
1歳半健診での対応と心構え
健診当日のポイント
子どもは慣れない健診の会場では緊張から、いつもできていることができないことも少なくありません。その場合は、ママ・パパへの問診で応答の指差しができているか普段の様子を聞き、発達の状態を確認します。
健診で指摘された場合の心構え
1歳半健診では、お子さまがいつもと違う環境に緊張したり、機嫌がよくなかったりして普段どおりの様子を見せられないことも多々あります。その結果「要観察」になることもあるかもしれませんが、必要以上に心配することはありません。
よくある質問と回答
Q1. 指差しの代わりに手全体で示すのは問題ありますか?
A. 指差しの仕方は、子どもによりさまざまで手全体を使って示す場合もあります。手全体を使った指示も立派なコミュニケーションです。徐々に指先を使った指差しへと発達していきます。
Q2. クレーン現象がある場合は心配すべきですか?
A. クレーン現象とは、自閉症の子どもによく見られる行動で、何か欲しい物を取って欲しい時に親の手首を持って、欲しいものに近ける行動です。しかし、クレーン現象は、自閉症の子どもだけに見られるものではなく、要するに言葉で表現できないための行動でもあります。
Q3. 指差しができるようになる練習は必要ですか?
A. 無理な練習は不要ですが、日常的な働きかけは効果的です。日頃から声かけをしたり、赤ちゃんの動作に反応してあげたりするようにすると自然と指差しができるようになるでしょう。
保護者へのメッセージ
発達の個性を理解する
子どもの発達は一人ひとり異なります。指差しができるようになる時期も、その子なりのペースがあります。子どもの発達に問題があるのでは、他の子どもと比べて遅れているのではないか、と心配しながら子育てをしていては、子どもに良い影響を与えることができないですね。発達に少しぐらいの遅れがあっても、子どもをかわいがって、よく関わってあげることが大切です。
温かい見守りの重要性
子どもが指さしをした時は、「ワンワンがいるね」とか「おもちゃがほしかったのね」などと、子どもの興味や気持ちを感じて、指差しに応えてあげるようにしましょう。ママやパパが応えてくれたことが喜びになり、また語りかけようとしてくれます。
まとめ
1歳半で指差しをしなくても、多くの場合は発達の個人差の範囲内です。大切なのは:
- 個人差を理解する:子どもそれぞれに発達のペースがあることを認識
- 総合的に判断する:指差しの有無だけでなく、アイコンタクト、言葉の理解、模倣などを総合的に評価
- 適切な働きかけ:日常生活の中で自然な形で指差しを促す
- 必要に応じて相談:心配な症状が複数ある場合は専門機関に相談
- 温かく見守る:子どもの成長を信じて、愛情を持って接する
指差しは言葉の発達への重要なステップですが、それができないからといって過度に心配する必要はありません。お子さんの個性を大切にしながら、適切なサポートを続けていくことが何より重要です。
出典・参考資料
- 厚生労働省「乳幼児健康診査事業 実践ガイド」
- 厚生労働省「きこえにくいお子さんを取り巻く状況」
- 教育心理学研究「指さし行動の発達的意義」秦野悦子
- 国立小児病院神経科・国立成育医療センター神経内科 専門医監修記事
- LITALICO発達ナビ医師監修記事
- ベネッセ教育情報サイト専門医回答