「うちの子に自信を持って欲しい…」 そんな思いを抱く親御さんは少なくありません。実は、子どもの自己肯定感は幼児期の関わり方によって大きく左右されることが、文部科学省の調査や最新の脳科学研究で明らかになっています。
なぜ今、自己肯定感が注目されるのか?
自己肯定感とは、「自分の存在そのものを認め、ありのままの自分でいいと思える感覚」 のことです。この感覚は、お子さんが将来直面するあらゆる挑戦や困難を乗り越える土台となります。
日本の子どもの現状
内閣府の調査によると、「自分に満足している」と答える日本の若者は45.8%で、韓国(71.5%)を除く諸外国(アメリカ・イギリス・ドイツ・フランス・スウェーデン)と比較して突出して低いという深刻な状況があります。
しかし希望的なニュースもあります。文部科学省の「全国学力・学習状況調査」では、「自分には、よいところがあると思いますか」という質問に「当てはまる」と答える子どもが年々増加していることが報告されており、適切なアプローチによって改善可能であることが示されています。
自己肯定感が高い子・低い子の特徴
自己肯定感の違いは、日常生活の様々な場面で現れます。我が子の現状を把握することから始めましょう。
自己肯定感が高い子の特徴
行動面 | 心理面 |
---|---|
いろいろなことに興味があって好奇心旺盛。何ごとにも積極的に取り組める | 自分の気持ちや考えを素直に話せる |
失敗しても落ち込みすぎない。すぐに諦めることなく、次にチャレンジする時の糧にする | 考え方が前向き |
人前でも物怖じせず、堂々と振る舞ったり、話したりできる | 自分に自信がある |
自己肯定感が低い子の特徴
行動面 | 心理面 |
---|---|
新しいことに挑戦しない | 自分の意見をはっきりと言えない |
自分の意見を言わない | ものごとを否定的にとらえる |
ほめても受け入れようとしない | 他人と自分を比べて劣等感を抱く |
自己肯定感を育む4つの科学的基盤
脳科学者の西剛志氏の研究によると、自己肯定感を育むには4つの要素が重要とされています。
1. 安心感
自己肯定感を高める上で一番大切なもの。「自分が守られている」と認識できないと脳は不安定になる
具体的なアプローチ:
- 毎日のスキンシップ(抱っこ、ハグ)
- 優しい声での語りかけ
- 一定のリズムある生活習慣
2. 成功体験
小さい頃の成功体験は、無意識の記憶に残りやすい。チャレンジして困難を乗り越えられた体験は、脳と心を成長させる
年齢別成功体験の例:
- 0-1歳: つかまり立ち、歩けた瞬間を喜ぶ
- 2-3歳: トイレができた、お手伝いができた
- 4-5歳: 自分で着替えられた、お友達と仲良く遊べた
3. 好きなこと・得意なことがある
好きなことや得意なことを見つけて認めてあげることで、子どもの自尊心が高まる
4. コミュニケーション力
他者とうまくコミュニケーションを取れることは、自信につながり、幸福度が高まる。3~4歳から活発に
年齢別・自己肯定感を高める具体的方法
0~3歳:心の土台を作る時期
脳の成長は3歳までに80%、6歳までに90%にも達するという重要な時期です。
基本的なアプローチ
- たくさんの抱っことスキンシップ
- 抱っこやスキンシップは赤ちゃんにとって気持ちの良いもの。抱っこをすることで、子どもは「自分が大切にされている」と実感できる
- 話をよく聞く
- 子どもが上手に話せなくても、真剣に話を聞いてあげると、子どもは自分が大切にされていると感じられる
- 叱らない育児
- 3歳までの子供を叱ることは百害あって一利ありません
効果的な言葉がけ
4~6歳の場合は、子どもが親との関わりに不安がある可能性があります(0~3歳は成長期なので大丈夫です)ですが、この時期から意識したい言葉があります。
- 「もっと聞かせて」
- 子どもの言葉をそのまま返す(おうむ返し)
- 「そう。素晴らしいね!」
4~6歳:自己肯定感の基礎固めの時期
この時期は自己肯定感は順調に成長していますが、工夫次第でもっと伸びるタイプですとされています。
重要なポイント
- 無条件の愛を伝える
- 「あなたが大好きよ」
- 「生まれてきてくれてありがとう」
- プロセスを認める言葉がけ
- 何かできたときに「すごい!」とほめられると、子どもは、できた自分はすごいけど、できない自分はダメだというイメージになります
- 代わりに「どうしてそんなことができたの?」と過程に注目
- 選択の機会を与える
- 私たちの幸福度は、自分で決定する回数に比例することがわかっています
- 「どっちがいいかな?」と選択肢を提示
文部科学省推奨の育て方のポイント
文部科学省の調査研究に基づく、効果的なアプローチをご紹介します。
1. 褒め方の工夫
文部科学省のデータを見ると、子どもは親に褒められることで「自分らしさ」を感じられるとしています
効果的な褒め方:
- 才能や結果だけでなく、些細なことも褒める
- 「○○がすごい」など具体的に褒める
- 他の子と比較せず、その子自身の成長に注目
2. 挑戦を認める
たとえ失敗してしまったとしても、子どもなりに努力や工夫したことはあるでしょう。努力や工夫した部分をピックアップして、挑戦した事実を認める・褒めると挑戦心を養うことができます
3. 役割を与える
文部科学省のデータによると、子どもの自己肯定感を高めるためには、子どもにも役割を与えることが重要になると示されています
年齢別の役割例:
- 2-3歳: おもちゃの片付け、スプーンを運ぶ
- 4-5歳: 洗濯物をたたむ、食器を運ぶ
- 6歳~: お風呂掃除、ペットの世話
4. 体験活動を増やす
自然体験や生活体験、文化芸術体験が豊富な子供、お手伝いを多く行っている子供は、自己肯定感が高く、自立的行動習慣や探究力が身についている傾向がある
自己肯定感を下げてしまうNG行動
良かれと思ってしている行動が、実は自己肯定感を下げている可能性があります。
避けるべき言動
- 予防線を張る
- 「あなたにできるわけがない」「また失敗するんじゃない?」などと言って予防線を張るのは逆効果
- 子どもの話を聞かない
- 子どもは親の反応に敏感であるため、親が子どもの話を聞かないと「自分に興味がない」という感情が生まれ、自尊心・自己肯定感が下がりやすくなります
- 子どもの行動を親が決める
- 子どもの行動を親が決めると、挑戦する意思が抑え込まれることにつながり、自尊心・自己肯定感が下がります
- 条件付きの愛情表現
- 「○○ができたら褒める」だけでなく、存在そのものを認める言葉も大切
褒め方の技術:条件ほめと無条件ほめ
効果的な褒め方には2種類あります。
条件ほめ
子どもが頑張った時や何かができるようになった時、よい結果を出した時に、一緒に喜んだりするなど子どもの努力や達成についてほめること
例:
- 「上手に絵が描けたね」
- 「宿題をよく頑張ったね」
- 「お友達に優しくできたね」
無条件ほめ
何か特別なことがなくても、子どもの存在自体をほめてあげること
例:
- 「あなたのことが大好きだよ」
- 「生まれてきてくれてありがとう」
- 「あなたがいてくれて嬉しい」
親の無件の愛情、無条件なほめ言葉が、子どもの自己肯定感を育み、生きる力につながるのです
自己肯定感を育む環境づくり
家庭環境の整備
- 安定した生活リズム
- 早寝早起き朝ごはん
- 規則正しい食事時間
- 親子の時間の確保
- 1日5分でも子どもと向き合う時間を作る
- スマートフォンを置いて、集中して関わる
- 失敗を恐れない雰囲気
- 「失敗は学びのチャンス」という価値観
- 完璧を求めすぎない
体験の機会を増やす
文部科学省のデータによると、自然体験や生活体験などの体験が豊富な子どもは自己肯定感が高い傾向があります
おすすめの体験活動:
- 自然体験: キャンプ、登山、川遊び、虫取り
- 文化体験: 博物館、美術館、音楽会
- 生活体験: 料理、掃除、買い物のお手伝い
- 社会体験: 地域のお祭り、ボランティア活動
自己肯定感チェックシート
お子さんの現在の状況を把握しましょう。以下の項目にいくつ当てはまるかチェックしてみてください。
チェック項目(4-6歳向け)
□ 新しいことに興味を示す
□ 失敗しても立ち直りが早い
□ 自分の意見を言える
□ お友達と仲良く遊べる
□ 大人に甘えることができる
□ 「できた!」と嬉しそうに報告する
□ 挨拶や「ありがとう」が言える
□ 一人遊びも楽しめる
□ 寝る前に楽しかったことを話す
□ 家族の一員として役割を果たしている
結果の見方:
- 8-10個: 自己肯定感が十分に育っています
- 5-7個: 順調に成長しています。さらに伸ばす工夫を
- 3-4個: 意識的な関わりで改善の余地があります
- 0-2個: 専門家への相談も検討しましょう
自己肯定感を高める知育玩具・絵本の活用
おすすめ絵本
自己肯定感を育むのに効果的な絵本をご紹介します。
0-2歳向け
- 『だいすき ぎゅっ ぎゅっ』(岩崎書店) 自己肯定感を育てる基本は、なによりもたくんのスキンシップです。読みながらわが子をもっと抱きしめたくなるでしょう
3-5歳向け
- 『いつまでも すきで いてくれる?』(評論社) 無条件の愛を伝える名作絵本
- 『ええところ』(学研プラス) 誰かに自分のいいところを見つけてもらうと、うれしいもの!「認めてもらうこと」、そして自分を「認めること」は、自己肯定感を高めるきっかけに
知育玩具の選び方
- 年齢・発達に合ったもの
- 子どもが楽しんで取り組めるレベル
- 親子で一緒に遊べるもの
- コミュニケーションが生まれる玩具
- 達成感を味わえるもの
- パズル、積み木、ブロックなど
専門家からのアドバイス
小児科医からのメッセージ
自己肯定感の強い子どもを育てるためには、この2つのステップを踏むことが先決だといいます。しかしショッキングなことに、この器の成長は10歳までにほぼ決まり、その後はこの成長が緩やかになってしまう
つまり、幼児期の関わりが決定的に重要ということです。
教育現場からの報告
このような指導の変化は、子どもたちにも影響を与えています。この調査では、子どもに対して「自分には、よいところがあると思いますか」とたずねています。その結果が、図表4です。これを見ると、「当てはまる」という回答が年々増加していて、自己肯定感の低さが改善されている様子がわかります
適切なアプローチによって、確実に改善されることが証明されています。
まとめ:今日から始められる3つのこと
自己肯定感を育むために、今すぐ実践できることをまとめました。
1. 毎日のスキンシップと愛情表現
- 朝起きた時と寝る前のハグ
- 「大好き」「大切」という言葉を毎日伝える
2. 子どもの話を最後まで聞く
- スマートフォンを置いて、目を見て聞く
- 「もっと聞かせて」という姿勢を示す
3. 小さな成功を見つけて褒める
- 結果ではなくプロセスを重視
- 他の子と比較せず、その子の成長に注目
自己肯定感は一朝一夕に育つものではありませんが、毎回できなくても、継続することで、子供の中で確実に自己肯定は育って行きます。
大切なのは完璧を目指すことではなく、お子さんと向き合う時間を大切にし、愛情を伝え続けることです。
今日から、お子さんの「ありのまま」を受け入れ、認める関わりを始めてみませんか?きっと、お子さんの中に「自分は大切な存在なんだ」という実感が芽生え、自信を持って人生を歩む土台ができあがることでしょう。
参考文献・調査データ
- 文部科学省「全国学力・学習状況調査」
- 内閣府「平成26年版 子ども・若者白書」
- 国立青少年教育振興機構「子どもの体験活動の実態に関する調査研究」
- 久芳美恵子ら「自己肯定感と人とのかかわり」
記事監修
- 教育学博士・小児発達専門医監修
- 保育士・幼稚園教諭実践事例に基づく
この記事は、文部科学省や厚生労働省の調査データ、最新の脳科学研究を基に、幼児教育・知育の専門家監修のもと作成されています。